カタクリ
もう、10年以上も経つだろうか。宮城県に住んでいた頃のことです。毎年5月の連休にもなると、なんとなく山の空気が吸いたくなって来きます。
それでも未だ、少し高い山は雪の中だし、雪山の経験はないし、とても雪山に登る元気もないので、いつの頃からか仙秋ラインと呼ばれる、その名の通り、仙台から秋田に抜ける峠越えの道路が開通になるのを待って、出かけるようになっていました。
鳴子を過ぎ、鬼首を通り、宮城と秋田の県境あたりに着くと、ぶな林はまだ雪を敷いていて裸樹です。
車が通るだけで山には散策する人影も見えないようなところに、カタクリの山、イチゲの山、イワウチワの山と、点在しています。
ここは、秋田に行く途中に通って、とても気にいった峠だったので、何度も足を運んでいるうちに、花のありかを見つけたところです。
山を切り開いて作った道路なので何の目印もなく、毎年山の小さな景色などで見当をつけては、それぞれの場所を探し出して、夫と二人お茶を飲み、おにぎりをほうばりながら、ぶなが今、芽吹こうとしている爽やかな空気を、体全体で受け止めて、時が消えているような心地を楽しみました。
そんな年が何年か続いた後のある年のこと、確かここがカタクリの山だったと入って見ると、光がいっぱいに溢れていて、山は樹が切り倒され、地肌が剥き出しになり、去年まで一面に咲いていたカタクリは、見るも無残な姿で、所々に呟くように咲いているのが見えるだけでした。
あの心の痛みは今も忘れることが出来ないでいます。
そのように消えてゆく花の山が私たちの知らないところにも、沢山あることと思っています。
もう、遠い所に越して来てしまって、あのあたりは今、どのようになっているのだろうかと、思いを馳せるだけです。
2002.07.02 記